2020.04.14　新型コロナへの漢方処方、エキス製剤代用で

医療従事者専用の医療系サイトの転載内容です／3月31日の記事


　多くの呼吸器内科医や救急医からの要望を受け、金沢大学病院漢方医学科臨床教授／診療科長の小川恵子氏は、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）に対する漢方薬処方の有用性についてのまとめを、日本感染症学会に特別寄稿。同学会の公式サイトで発表された。内容は、主に中国の「新型コロナウイルス（SARS-CoV-2）診療ガイドライン 第7版」（以下、中国GL第7版）を参考に、現時点で有用が示唆される漢方薬に関し、同氏が日本の保険診療に鑑み漢方エキス製剤に置き換えて解説したもの。

【GL（ガイドライン）の翻訳だけでは日本の保険診療にそぐわない】

　中国GL第7版では、生薬による漢方治療についてまとめているのに対し、日本の保険診療では漢方薬のエキス製剤を処方することが多い。そのため同氏は、中国GL第7版を単純に翻訳するだけでは日本の診療には不十分と判断。SARS-CoV-2の実臨床に役立つものとして、COVID-19の臨床分類別に有用性が示唆される漢方薬をエキス製剤に置き換えて解説した。

【無症状病原体保有者には補中益気湯および十全大補湯で代用】

　寄稿では、無症状病原体保有者の病原体陰性化促進が期待できる漢方薬として、いずれもエキス製剤がある補中益気湯と十全大補湯を挙げている。補中益気湯は、インターフェロンを上昇させることが動物実験で報告されている（Antiviral Res 1999; 44: 103-111）。

　また十全大補湯については、小川氏らが行ったヒト対象研究において、投与後にナチュラルキラー（NK）細胞機能が改善。さらに抑制系の活性化が示されたことから、過剰な炎症を予防する機序が考えられた（Adv Integr Med 2020年1月7日オンライン版）。

【4つの臨床分類で代用が可能】

　中国GL第7版において、COVID-19は�@軽症（症状が軽く肺炎の画像所見なし）�A中等症（発熱や呼吸器症状があり、肺炎の画像所見あり）�B重症（頻呼吸30回/分以上、安静時動脈血酸素飽和度93％以下、画像所見による肺の病巣の進展が24〜28時間に50％を超えた例など）�C重篤〔人工呼吸器を要する、ショック症状、臓器不全を併発し集中治療室（ICU）での治療を要する〕―に臨床分類している。

　軽症に対し、発熱を伴う場合は金花清感顆粒、連花清瘟、疏風解毒膠嚢などの生薬を用いるが、いずれもエキス製剤はない。そのため、小川氏は代用するエキス製剤として黄連解毒湯、清上防風湯、荊芥連翹湯、またはこれらを組み合わせて用いることを提案している。

【中医学の「邪」を「臨床症状」で説明】

　中医学では、疾患の発症要因全般を「邪」とし、邪の性質によって治療方針を決める。小川氏は、邪ではなく併記した臨床症状に注目してほしいとしている。

　例えば中等症例として、湿熱という邪で肺機能が滞る湿熱蘊肺がある。臨床症状でいうと、微熱あるいは無熱、微冷感、倦怠感、頭が重い、筋肉痛、渇いた咳、喉の痛み、吐き気、食欲不振、便が緩いまたは粘りがあって出にくく不快感を伴う―など。生薬は檳榔をはじめとする12剤が推奨されているが、エキス剤に置き換えると荊芥連翹湯＋半夏厚朴湯の併用となる。消化器症状が強ければ、柴苓湯＋平胃散を併用する。

　重症は、邪によって肺機能が著しく低下している状態を指し、臨床症状として発熱、赤面、咳、痰は黄色く粘り気が少ないまたは血痰を伴う、呼吸が苦しいなどがある。推奨される生薬は生麻黄、杏仁、生石膏、甘草など14剤。エキス剤を用いる場合は、麻杏甘石湯＋五積散＋大承気湯の3剤を併用し、吸痰困難例であれば竹茹温胆湯＋柴陥湯併用で代用する。

　さらに、中医学でいう内閉外脱証となる重篤の臨床症状は、人工呼吸器を要する、臓器不全を合併しICUでの治療を要するなど。生薬では朝鮮人参、黒順片などを煎じ、蘇合香丸または安宮牛黄丸との併用を推奨しているが、エキス製剤を用いる場合は竹茹温胆湯＋柴陥湯を併用する。

【中医学併用群で画像の改善率、臨床完治率、悪化率に有意差】

　COVID-19に対する中医学および西洋医学の併用（中西医結合）の有効性について、小川氏が中国で行われた観察研究の結果をまとめている。

　対象は、COVID-19により中国湖北省・中西医結合病院に入院し、2020年1月15日〜2月8日に退院した52例。主な症状は発熱（75％）、全身倦怠感（61.5％）、咳嗽（50％）で、臨床分類の内訳は中等症が76.9％、重症が19.2％、重篤が3.8％であった。中西医結合治療群（以下中西医群、34例）と西洋医群（18例）に分け、臨床症状の持続期間、入院日数、臨床的完治率、死亡率などを検討した。

　その結果、西洋医群と比べ中西医結合群では臨床症状消失までの期間、体温回復期間、入院日数などがいずれも有意に短かった（P＜0.05またはP＜0.01）。

　さらに、西洋医群に比べ中西医結合群では退院時の随伴症状の消失率（53.8％ vs. 87.9％）、CT画像の改善率（68.8％ vs. 88.2％）、臨床完治率（61.1％ vs. 94.1％）が有意に高く、中等症から重症への悪化率（33.3％ vs. 5.9％）は有意に低かった（P＜0.05またはP＜0.01）。

　これらの結果を踏まえ、同氏はCOVID-19患者に中西医結合による治療を行った場合、臨床症状が著明に軽減し、罹病期間を短縮させ、完治率を向上しうると推測している。また処方は多岐に及んでいたことから、中医学的診断に基づいた処方が有効であったとの認識を示している。